エンタープライズでは、日々繰り返されるあるシナリオがあります。営業担当者が、大型案件の成約を間近に控えています。自分のコミッションがいくらになるのかを知りたいと考えています。その疑問をChatGPTやお気に入りのAIアシスタントに入力します。返ってくるのは、ソフトウェア企業における営業報酬の一般的な仕組みについて丁寧に整理された説明です。
ただし、この特定の案件を成約した場合に実際のコミッションがいくらになるのかは示してくれません。AIが推論できることと、自社ビジネスについて把握している内容との間にあるこのギャップこそが、現在のエンタープライズAI導入における本質的な課題です。
私は、これをロジックレイヤーと呼んでいます。これがない場合、AIは一見優れた出力を返しますが、実際のビジネス運用とは乖離していることが多くなります。
ビジネスロジックがアナリストに属する理由
AIに関する根強い誤解のひとつに、アナリストは近い将来不要になるという考えがあります。
しかし実際はその逆であり、その理由こそがロジックレイヤーです。
AIを活用する企業では、ビジネスを動かすロジックとコンテキストに最も近い存在であるアナリストの重要性が、さらに高まります。監査、マーチャンダイジング、財務、マーケティングといった領域において、どのパイプライン定義が重要か、どのエッジケースを考慮すべきかを把握しています。
私は、AI時代に成功する企業は、AIの導入量ではなく、ビジネスを理解する人々がその意思決定ロジックをどれだけ主体的に管理できるかによって決まると考えています。
その管理がIT部門やベンダーのブラックボックスに完全に委ねられてしまうと、企業は十分に適応も監査もできないシステムを拡大してしまうリスクがあります。ビジネスチームに自らのロジックを管理するためのツールと権限を与えることで、AIシステムは、より信頼性が高く、実際の業務に即したものになります。
だからこそ私は、アナリストを次の時代の設計者だと捉えています。
ロジックレイヤーが実際にどのように機能するのか
コミッションの例に戻ると、この概念をより明確に理解できます。現在、営業担当者が案件のコミッションを知りたい場合、コミッション担当のアナリストに問い合わせます。そのアナリストは独自の表計算ソフトを持っています。というのも、報酬プランは四半期ごとに変更され、SPIFF(販売インセンティブ)や特別プログラムが上乗せされるためです。アナリストは手動で計算し、その結果を返します。
では、そのアナリストが、自社固有の報酬ルール、プラン、プログラムといった実際のコミッションロジックをエンコードした、シンプルで明確な計算ツールを構築し、それを営業担当者がすでに利用しているAIシステムに連携したらどうでしょうか。そうすれば、担当者が特定の案件についてコミッションを尋ねた際に、正確な答えを得ることができます。コミッションの仕組みについての一般的な説明ではありません。
そして、ここにさらなる価値の広がりがあります。同じロジックを年次計画を担うAIエージェントが活用することで、さまざまな報酬プランが運用コストに与える影響をモデル化できるようになります。また、財務計画において、数百ものシミュレーションを行うシナリオプランニングモデルにも活用できます。これを構築したアナリストは、AIシステム全体が、正確でビジネスに即したロジックに基づいて動作することを可能にします。
これが、実践におけるロジックレイヤーです。ビジネスの仕組みを内包した、厳選された目的別設計のデータ資産や計算ツールを、業務を理解する人が管理し、必要とするすべてのAIシステムに展開できるようにするものです。
ロジックレイヤーに必要なもの
多くの企業がつまずいているのは、この部分だと考えています。インフラへの投資は、すでに行われています。クラウドデータプラットフォームや、承認済みのLLMも導入されています。しかし、それらのシステムに、本来想定されていない役割まで担わせようとしています。
ロジックレイヤーには、次の3つが必要です。
目的別に設計されたデータ資産:実際の業務プロセスの測定方法を正確に反映した、限定的で整理された明確なデータセットです。
コード化されたビジネスロジック:これは、現在は人の頭の中にある、ポリシーやエッジケース、そしてデータに意味を与えるコンテキストの部分です。
それを更新できる仕組み:ビジネスは変化し続けるものであり、現状維持を目的とするものではありません。そのため、ロジックレイヤーは、ビジネスの変化に応じて、現場の専門家が更新できるものである必要があります。
現実的な進め方
朗報として、ロジックレイヤーの構築を始めるにあたり、完璧なアーキテクチャを待つ必要はありません。
まずは、最も価値が高く、かつ繰り返し発生するビジネスプロセス — 現在、アナリストが毎週のように同じ質問に対応しているような業務から着手しましょう。こうしたプロセスでは、ロジックを厳選されたAI対応のデータ資産にエンコードすることで、即座に測定可能な価値を生み出せます。
そのうえで、そのエンコードを、ITではなくアナリストが主体的に担えるようにします。ローコードツールを提供し、エンコードされたロジックを自らが所有し、ビジネスの変化に応じて進化させていく、戦略的資産として扱う権限を与えます。
ここでは、リーダーシップの姿勢も重要です。
私は以前から、これをビジネスとITのどちらか一方を選ぶ問題として捉えるべきではないと述べてきました。両方が必要です。IT部門は、標準の策定、インフラの管理、セキュリティ境界の確立、そして承認されたAI機能を組織全体で利用可能にする役割を担うべきです。一方で、企業が運用に乗せるあらゆるビジネスロジックにおいて、ITがボトルネックになってはいけません。
もしこの話に既視感があるなら、それは当然です。このパターンは、これまでのエンタープライズテクノロジーでも繰り返されてきました。インフラやプラットフォームは重要です。しかし最後の一歩、つまり機能をビジネス価値に変える部分は、常に現場に最も近い人に依存します。
AIも例外ではありません。
AIから最大の価値を引き出す企業は、AIをオペレーティングモデルとして捉える企業です。中核となるワークフローを自動化し、適切なデータを整備し、AIを有用にするロジックを定義し、ビジネスで活用できる回答を生み出す役割を、アナリストやドメインエキスパートに委ねます。
最近、Talking AIポッドキャストで、これらの考えについてさらに深く話す機会がありました。アナリストの役割の進化、ロジックレイヤーとエージェント型ワークフローの関係、そして今後18か月がこの分野において重要な転換期になる理由について、さらに詳しく知りたい方はぜひお聞きください。