株式会社竹中工務店は、初代竹中藤兵衛正高が神社仏閣の造営を始めた1610年を「創業」、14代竹中藤右衛門が神戸に進出した1899 年を「創立」とする老舗の大手総合建設会社です。設計施工一貫方式を得意とし、まち・建物のライフサイクルにおける多様なソリューションを提供しています。 「Data Driven Design Build( d^3^b )」というキャッチフレーズを掲げ、省人化・省コスト・高速化といった合理性の追求だけでなく、建築の設計の可能性を広げるために、データを活用できるようにしたいという考えから Alteryx を導入しました。300 年にわたり受け継がれてきた建築データと、今を生きる人々の想いを Alteryx によって「見える化」し、付加価値の高い次世代建築の設計に生かしています。
経営理念に「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を掲げる竹中工務店、保有する建築物に関する資料は、古くは 1600 年までさかのぼることができます。その重要性については早くから強い意識を持ち、300年以上の情報を電子化したデータベースを構築し、保有していました。 しかし提供するソリューションが敷地の開発から建物の企画・設計・施工・運用など多様なステージにわたること、また建物は基本的に一品生産で特別な対応も多く、それらの情報の整理・業務利用が大きな課題でした。このような状況を改善し、設計業務に使えるデータを可視化するために導入したのが、BI(Business Intelligence)ツールであるTableau でした。
「Tableau を導入し、試しにデータベースに格納されているデータを可視化してみたら、かなり古い時代の情報を含め、興味深い情報を多数保有していることがわかりました。しかし、それらはいろいろな場所に点在しており、全体像や詳細を理解し、設計業務に活用することに高いハー ドルを感じていました」(上杉氏)
もともと IT ツールのユーザーが集まるコミュニティーで、Alteryx の話を耳にしていたという上杉氏。Tableau のイベントに参加した際に、社内に蓄積されていたデータの活用について相談してみたところ、Alteryx を勧められました。そこで、試用版を使ってみたところ、Tableau では見えていなかったデータの価値がすぐにわかったといいます。
Alteryx のユーザーは、最初は上杉氏 1 人でしたが、社内向けに行ったデモによって、徐々にユーザーが増えていきます。
「初期設定の時には、NTT データのサポートを活用しました。NTT データの手厚いサポートのおかげですぐに疑問は解け、使えるようになりました。プログラミングに詳しくない私でも直観的に理解できるところが、Alteryx の良さだと思います」(松下氏)
「私はサイトにあるトレーニング用の動画を見ながら、使い方を学びました。オンライントレーニング用のコンテンツは充実していて素晴らしかったです」(池田氏)
「これまでプログラミングによって実行していたことが、Alteryx ならコンポーネントの組み合わせで行えるため、専門知識が要りません。また、出来上がった Alteryx ワークフローは、誰が見てもロジックが簡単にわかるため、属人化が防げます。ワークフローは修正も容易であるため、別用途への転用も可能です」(後藤氏)
Alteryxで、より付加価値の高い建築物の提案が可能に
Alteryx 導入で、社内各部署が保有するデータの全容が見渡せるようになっただけでなく、外部のデータソースとの融合もできるようになりました。得られた情報は、建物の設計や、すでにある建物に実装するシステム、新たなサービスの創出などに活用しています。
過去の竣工物件の検索は、時期・規模・建築地などの大きなくくりから行うことが基本でした。設計者の目線で有用な情報をもとにデータを統合・可視化することで、構造の形式、空調システムなどの細かい切り口での検索や、時代ごとのトレンドを見ながら設計ができるようになりました。また過去の担当者に容易にたどり着ける工夫をすることで、コミュニケーションを活発化し、ノウハウの伝承も意図しています。
機械学習を自動化するプラットホーム「Data Robot」と Alteryx の API 連携により、竣工物件の設計や施工に関わる情報を整理・構築したデータベースを利用し、新たな設計案件では建物の仕様や性能の予測に活用しています。
外部データソースとの融合の一例として、SNS(Social Networking Service) との連携があります。当社技術「ソーシャルヒートマップ ®」※と Alteryx を組み合わせて、SNS で発信された情報を分析し、建築予定の土地に暮らす人の感情面に焦点をあてた分析をし、設計の提案に生かすといった取り組みを行っています。
※ 竹中工務店技術研究所が開発した位置情報付き SNS 分析ツール。SNS のコメントから人の感情などを独自ロジックで抽出し、まちの質的評価を可能としている。
「他にも、建物の電気や水道の使用量などの情報を分析し、必要な情報だけを切り出して提供するサービスや、気候情報をタイムリーに建物内の人へ知らせるような自然と人とをつなげるシステムなど、新たな提案を考えています。Alteryx 導入により、より付加価値の高い提案が容易にできるようになったと思います」(上杉氏)
続いて、Alteryx 導入による効率化についての所感をお聞きしました。 「Alteryx 導入で、様々なデータベースのデータを統合するための工数が大幅に削減されました。実は、それ以上に、作業負荷の高さから諦めていたことに取り組めるようになったことのほうが、効果が大きいと私はとらえています。例えば、社内データベースのクレンジングは 30 時間ほどかかりましたが、Alteryx が無かったら 10 倍以上の時間が必要だったと推測しています」(上杉氏)
「テキストデータの表記ゆれの修正は、どんなにうまく関数化しても非常に時間がかかる作業なのですが、Alteryx は簡単でした。 私の感覚では、作業時間はプログラムを組む場合の半分以下で済みました」(後藤氏)
「ツールの導入効果は時短や効率化の視点のみで捉えがちですが、Alteryx 導入の真価は、これまで活用できていなかったデータも活用できるようになったこと。たとえるなら『古い蔵の中に眠っていた古い道具が見つかり、活用できるようになった』のが今の状態。Alteryx の最大の功績です」(上杉氏)
Alteryx は、いまや竹中工務店において「データの HUB」「コミュニケーションの HUB」という2つの大きな役割も担っていると、上杉氏は語ります。その意図を詳しくお聞きしました。
社内に点在していたデータを一元化するだけでなく、AI(Data Robot)とのAPI連携や、SNSや公的機関の公開データなどの多様な外部データとの連携も可能になりました。
技術背景が異なる関係者を、共通のプラットホーム上でつなぎ、システム開発の企画から実装まで、同じフォーマットでできるようになりました。Alteryx は人と人だけでなく、人とデータが会話するための翻訳機のような役割も果たしています。 例えば、ミーティングでホワイトボードに記したデータプロセスのイメージを、すぐに別の人間が Alteryx でワークフローとして構築することができます。
今後の展望について、池田氏と上杉氏は次のように語ります。 「これからはいろいろなものがセンシングされる時代です。センシングで集めた情報をクラウドに蓄積し、Alteryx で分析可能なデータに変えることで、例えば、『人が不在の時はエネルギーを使わないように自ら考える建物』とか、『遊んでいる子どもの行動をセンシングして、子どもが楽しいと思える街づくり』といったことができるのではないかと考えています」(池田氏)
「これまで、マーケティング調査等で、まちや建物の定量的な情報は収集できていました。Alteryx 導入により、SNS などの外部情報と連携することで、定性的な情報、特に、設計に一番大事な『人の想い』がわかるようになった功績は大きいと思っています。 Alteryx は、大工にとっての道具箱のような存在です。昔の棟梁が大工道具を駆使して建築していたように、現代の設計者として Alteryx を駆使して得た情報を未来の建築物に活かしていきたい。データに込められた 300 年分の先人の知恵や想いを受け継ぎ、100 年後に残るプロジェクトに活かす⸺ 。データ活用は速さの観点から論じられがちですが、老舗の竹中工務店だからこその『ゆっくりなデータの使い方』があると考えています。」 (上杉氏)