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医療データのアクセス性を向上させる必要がある3つの理由

人財   |   Pang Chaoprang Herrera氏   |   2023年7月5日

医療では、患者の転機(治療における症状の経過や結果)に多大なエネルギーが注がれます。健康状態を改善すること、つまり人々の病気を治すことが医療の目的である以上、これは非常に理にかなっています。しかし、データに対し、同様の成果ベースのアプローチを取るとしたらどうでしょうか?医療におけるデータの利活用についてはさまざまな議論がなされていますが、私たちが収集・分析するすべてのデータからポジティブな結果を得られるようにするためには、もっとたくさんのことができるように思えます。データから価値を見出し、そこから得た洞察を患者と共有するにはどうすればいいのでしょうか?

お察しの通り、私たちの行く手にはいくつかの障壁が立ちはだかっています。まず、患者のプライバシーに関する懸念と複雑さが、医療従事者のデータへのアクセスにおける課題を引き起こしています。これらの課題を解決して初めて、私たちが提供するケアや患者に提供する体験を改善するためにデータを活用し始められるようになります。

私の専門は、生物医学、法医学心理学、臨床研究であり、未加工のデータを患者の転帰を改善する有意義なインサイトへと変えることに情熱を注いでいます。生のデータをできるだけ多くの人が理解できるようにすることに、非常にやりがいを感じています。

私たちが「転帰」について語る場合、それは実にさまざまな要素が組み合わさったものとなります。患者の健康が第一ですが、患者の経験も重要です。そしてデータは、患者体験を根本的に改善するための調整を行う際の指針となります。入院中の患者を幸せにすることができれば、患者の人生に別の形で良い影響をもたらせるようになります。

その良い例が待ち時間です。A地点からB地点、そしてC地点まで、患者体験を改善するためにできる調整はたくさんあります。私は病院で勤務していたとき、5分ほどであるはずの待ち時間が、なぜ1時間もかかるのかいつも疑問に思っていました。この問題を解決するには、多方面からデータを集めて、遅れの根本原因を突き止めればいいのです。セキュリティ面で時間がかかりすぎている?患者カルテの読み込みが遅すぎるのか?さまざまな要素が関わってくることになりますが、より良い結果を得るためには、ノイズを最小限に抑える必要があります。

何を追跡しているのか、なぜ追跡しているのかを頻繁に自問してみましょう。健康上の成果だけなのか?最後の来院時に、人々の健康状態は良くなっているのか?ある分野で、別の分野での成果を損なうようなことをしていないか?どの病院でも、患者が自分の経験を評価できるように、5分か10分程度の患者アンケートを実施しています。しかし、患者の時間を割いてまで、患者自身よりも病院のためになると思われることを要求しているとしたら、患者にとって大きな負担になりかねません。ですから、これは皆さんが追跡できる改善点のひとつです。しかし、患者が病院を転々とした場合、こうした追跡は途絶えがちです。小規模のクリニックでは、まだ電子カルテを導入していないところもあるでしょうし、いまだペーパーが主流のところも少なくありません。

医療データへのアクセスにおける課題

私たちは、組織内のデータを洞察へと変えることのできる人々が、できるだけ容易にデータにアクセスできる環境の実現を目指しています。しかし、医療現場では、以下のような場合などにおいて障壁にぶつかりがちです。

  • インフォームドコンセントと患者への説明
  • データ利用に関する明確な理解の欠如
  • 非識別化データへのアクセス制限
  • リアルタイムでのデータ要件の更新

これらはすべて現実的な懸念事項ですが、アクセスを妨げる多くの複雑な問題を解消させることは可能です。まずは患者に目を向けてみましょう。彼らは皆、IRBで承認された同意書に署名します。これは、私たちが患者のどのような情報を使用するのか、そしてその理由を明確に説明するための最初のチャンスになります。もし患者データが非識別化されているのであれば、それらのデータはいつでも照会できるように一元的に保管されるべきです。患者の転帰データがコンピュータ上の何らかのフォームやプログラムに保存されていたとしても、それをシステムから取り出すためにはアクセスとノウハウが必要です。アクセスが難しい場合は、ITチームなどに頼らざるを得ませんが、これもまたハードルとなります。

時には、データがバラバラな形式であちこちに存在し、一貫性が保てない状態かもしれません。また、データベース同士に互換性がなかったり、デジタル資産とアナログ資産が混在していたりするかもしれません。焦点を当てるべきは、ひとつの結果と、それを取り巻くすべての変数です。現在の状態から、患者の転帰を改善するのに十分な知識を得るまでには、どのようなステップを踏む必要があるのでしょうか。プロセスの改善という大がかりな仕事に乗り出すためには、まずはすべての重要な要素を単一のデータウェアハウスに集約させることが重要です。

1. 運用データの力を解放

運用データは、意思決定と転帰改善のための強力なツールとなり得ます。医療における「運用データ」はどんなことに役立つのでしょうか。私は、次のようなメリットにつながると考えています。

  • 患者のフローにおける非効率性の特定
  • 長い待ち時間への対処とサービスの向上
  • 患者からのフィードバックを改善に活かす

一人の人間が声高に変化を訴えたとしても「無意味な遠吠え」となりかねません。たった一人の懸念に対処したところで、その指摘された問題はリストのはるか下に存在するか、まったく問題ではなかったことが後々発覚するかもしれないからです。後手後手の変更に終始したあげく、後で元に戻す必要が出てくるかもしれません。それでは文化的な変化ではなく、堂々巡りに過ぎません。文化的な変化は、チームが平等にデータにアクセスでき、そのデータに基づいて十分な情報に基づいた変化を生み出すことができたときに起こるものです。

チーム全体でできるだけ多くのデータを共有することで、何が起こっているのかをよりリアルタイムに理解できるようになります。利害関係者を明確に定義して重大な問題を特定し、データを指針としてその問題を解決するようにしましょう。病院の最大のボトルネックを特定できれば、解決策をスマートに導き出せるようになります。患者の大多数が同じ問題に関して否定的なフィードバックを寄せているのであれば、それは解決する価値のある問題だと確信できるでしょう。

より多くの人々がデータにアクセスできるようにするには、どうすればよいのでしょうか?多くの人にとって抽象的に感じられるかもしれませんが、そのためには積極的な文化を創造する必要があります。私たちは、自分が知っていると思っていることを、自分の目で見て知っているという抽象的な考え方から抜け出す必要があります。それが私の取っている一般的なアプローチです。まずはデータから結果を導き出すべきです。結果を確認するためには、振り返ってデータを精査する必要があります。その過程で、いつ、どこで、何を変えるべきかが分かるようになってきます。ちょっとした調整でも大きな効果が期待できます。例えば、患者を1階に送り、次に2階に送り、再度1階に送って、その後3階に送っているのであれば、2階でスペースを共有し、患者が行き来する必要がないようにするのはどうでしょうか。階段の上り下りが苦手な人たちにとって、あなたのちょっとした調整が大きな違いになるのです。

2. 関心と協力の促進

データ主導の意思決定を根付かせたいのであれば、まずは協力し合うことのできる風土づくりから始めましょう。グループを結成し、組織全体でのコラボレーションを提唱しましょう。さらに、アクセス可能なデータの価値を促進するような成功事例を、ビジネス全体で共有してください。人々がより良い方法があるという確信を得られれば、サイロから抜け出すきっかけとなります。

臨床の場では、ある人が声を上げる一方で、他の静かな参加者が価値あるアイデアを独占してしまうということが起こりかねません。こうした問題を回避するためには、まずは少人数のグループでデータを共有し、その後、小規模なグループの数を増やし、優れたアイデアを取り込み、そこからネットワークを広げていくことをお勧めします。

この仕事を始めた際に、まずはダッシュボードを作成しました。ダッシュボードを作り込むほどに、同僚とのコミュニケーションもスムーズになり、私たちが何を研究し、何を学んだかをより良く伝えられるようになりました。そして、ほどなくして、「あなたたちがこういうことができるとわかったので、こういうことを加えてはどうでしょう?」という要望が多く寄せられるようになりました。彼らの意見を取り入れることによって、私たちがすでに対応していることを改良したり、まったく新しいラインを立ち上げたりして、取り組みをより強化することができました。

関心と協力を促進させるほどに、時間の経過とともに多くのメリットが得られるようになります。成果の向上への取り組みは小さなことから始まるかもしれませんが、そうした小さな成功を積み重ねていくことによって、より大きな成功に近づいていくことになります。

3. 組織全体のデータリテラシーの向上

データへのアクセス性の取り組みに着手するために、既存の品質チームの助けを借りることができます。私は、品質管理部門に移る前は臨床現場にいました。当時、臨床データ管理部には2人のデータ分析担当者がいました。私たちが部門会議で関心分野を尋ねたところ、人々はこう言いました「常に更新しなければならない特定のプログラムを使うのではなく、これを見ることができればいいのに。もし、あることを設定する手助けを得られれば、データを関連付けられるようになるのですが」と。

そこで、私たちは彼らが手作業によるデータ更新の課題を克服し、データの可視化とコミュニケーションのスキルを高められるようにサポートしました。例えば、30列もある表は誰からも敬遠されます。そこで私たちは、ダッシュボードによる可視化方法を紹介しました。調べたい病気をフィルターにかけ、他の病気を非表示にし、スクリーンショットして、必要に応じてパワーポイントに貼り付ける、それだけで完了です。この方法は多くの人々に支持されるようになり、他の部門や部署にも広がっていきました。

まとめ

私が学部を卒業した当時、データ分析関連の授業やプログラムは極めて限られていました。しかし、今の若い世代は、データ分析が素晴らしい分野であり、データ分析を習得することで、さまざまな可能性が拓かれることを良く知っています。

医療における朗報は、データ分析に注目する人が今までになく増えたということです。データ分析は、以前ほどとっつきにくいものではなく、興味があれば誰でも学べるものになっています。人々がデータに触れる機会が増えれば増えるほど、より快適にデータを扱えるようになり、私たちの誰もがデータから恩恵を受けられるようになります。

適切な人々が医療データにアクセスできるようになれば、良いことが起こります。より多くの情報に基づいた意思決定、より良い患者の転帰、より良い、より健康的な世界が実現します。これほど素晴らしいことはありません。

Pang Chaoprang Herrera氏
Seagen社 シニア・クリニカル・データ・アナリスト

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